背景
キーボードについて調べていたら、ortholinear(格子配列)というカテゴリのキーボードがあることを知った。
Massdrop x OLKB Planck Mechanical Keyboard Kit | Price & Reviews | Massdrop
キーボードの配列が"QWERTY"なのは、その祖先であるタイプライターが抱えていた技術的な制約に由来するものだということは知っていたが、キーの”列”がずれているのも同じくタイプライターの技術的制約によるものだったということを、合わせてその時に初めて知った。
キーボードの形とはこういうものという認識でその形状に特別疑問を抱くこともなかったが、考えてみれば確かにキーが綺麗な格子状に並んでいないのは不自然である。この事実を知ってしまったら、ortholinear なキーボードを使ってみたい、という気持ちを抑えることができなくなった。
準備
格子配列のキーボードは、普通には売っていない*1。 売っていないものを手にいれるにはどうするか。
そう、作るのである。
作るといっても完全にゼロからのスタートではなくて、キーボードの"レシピ"にあたるものはすでにいくつか存在していて、それに必要な"食材"や"調理器具"を用意すれば、誰でも"調理"ができるような状態になっている。 既存のレシピに満足できずに自分で1から作り上げるツワモノもいて、そういう人は3Dプリントしたケースにスイッチをはめ込んで手で配線するとか、プリント基板を設計するところから始めるとか、ひとつ上の次元にいる人でここではこれ以上言及しない。
レシピを選ぶ
自作キーボードというマイナーなジャンルでも、蓋を開けてみればそこには多種多様なバリエーションが存在する。キーの数、キーの形(プロファイル、と呼ぶ)、キーの配置、etc. バリエーションをあげたらきりがない。 そんななかで、自分に合いそうなレシピを探した結果、現状ではこれがいちばん合いそうだ、と判断した。
https://ja.aliexpress.com/item/xd75re-Custom-Mechanical-Keyboard-75-keys-TKG-TOOLS-Underglow-RGB-PCB-GH60-60-programmed-gh60-kle/32818745981.html
XD75*2 という、ortholinear で5行×15列の75キーから成るモデルである。 自作キーボード界隈だと、キーの数がもっと少なくてスッキリとした見た目のものが主流と思うが、自分は実用性を捨てきれなかったので最低でも5行は必要だと判断した。少なくとも、独立した矢印キーと、記号類は単一のキーで入力できるくらいのキーは欲しい。
余談にはなるが、自作キーボード界隈では左右が分かれたモデルも多い。
https://www.reddit.com/r/MechanicalKeyboards/comments/5qpc2t/lets_split_wgranite/
左右分割型の良いところは、右手と左手の間隔を開けることで、より自然な体勢でタイピングができることである。 また、副作用として、明らかに「普通でない」見た目が発する"ドヤ感"がある。 このようなモデルも市販品ではほとんどお目にかかれないので惹かれるものがあったが、今回はあまり欲張らないことにした。 (左右分割型の市販品が欲しい人は、Mistel の Barocco あたりを見てみると良いかもしれない。)
部品を発注する
何が作りたいかが決まったら、あとはそれを作るための部品を用意する必要がある。 有名どころのショップだと自前のサイトから部品を購入できるようになっていたりもするが、微妙に品揃えの点で小回りが利かなかったりするので、AliExpressで多くのセラーから部品を選べるようになっていると何かと便利である。 AliExpressではみんな大好きPayPalが使えないので、ふつうにクレジットカードで決済するか、AliPayという独自の決済サービスを使うことになる。 ただ、どちらも不安要素があるので、私はAliExpressでの決済用にプリペイドVISAカードを新たに作成した。
たとえばXD75の場合、最低限必要な部品は以下のものになる。
- PCB(プリント基板) こいつにスイッチやLEDをはんだ付けしていく。
- プレート(スイッチをはめる"型"。たまに、ケースがプレートの役割を果たすようなものもある)
- ケース
- スイッチ(独チェリー社のものが代表的。また、中国メーカー(Gateron, Kailh, Outemu, Greetech, etc.)によるクローン品が多数存在する。クローンといっても単なるコピーにとどまらず、性格の異なる多数のスイッチを各社が販売しており、このスイッチの分野だけでも狭く深い沼が存在することは想像に難くない。)
待つ
部品を発注してしまったら、あとは届くのを待つ。 AliExpress(中国)から物を買うと、届くまでに大体15日〜20日はかかるので、その間はずっとワクワクすることができる。 翌日(場合によっては即日)配達のAmazonが当たり前になった我々が知らず知らずのうちに失ってしまったのはこのワクワク感なのかもしれない。
*1:完成品を販売している(厳密には、組み立てを代行してくれる)ところもある。例えば https://unikeyboard.io
*2:写真のものはXD75REと言って、基盤にholtiteのようなものが初めから搭載されており、スイッチをホットスワッピングできる、というものである。私が実際に選んだのは、普通にはんだ付けの必要がある XD75AM というモデル。